或るバーチャル現場作業員の記録

2020/05/10

当記事は2020年5月10日にVirtual Market 4のスタッフブログに掲載されたものです。筆者sabakichiはVirtual Market 4に制作スタッフとして参加していました。その際に制作メンバーとして執筆した記事となります。

記2020年5月8日
sabakichi

この文章は、バーチャル現場作業員が書き残した、バーチャル作業現場についての記録です。

こんにちは

sabakichiです。
Vケット4制作チームで配置作業員をしています。
今回はDefault Cubeを担当しました。

配置?そんなのいたっけ…という方も多いと思いますが、配置スタッフはVケットというとても大きなイベントの中で、いわゆる“現場”作業に相当する非常に地味なポジションです。これといってオリジナルの制作物が発生するわけでもないため、表舞台に立つこともほとんどありません。裏方と言って差し支えないと思います。

そんな地味な作業について、知りたいですか?知りたいですね。少し書きます。基本的に文字しかありませんが作業が地味なので仕方がありません。

バーチャルの現場から

配置作業とはその名の通り、出展者さんから大切なブースを預かり「Unityのシーン内に配置していく作業」のことです。シンプルですね。

私はVケット2, 3から引き続き作業員として参加しているのですが、実は2の時点では配置作業は完全な“手植え”でした。それは一種の土木作業といっても差し支えありません。ひたすら流れ込んでくるブースデータを一つ一つ手でシーンに配置していく。それをワールドの数だけ繰り返していき、植え続ける作業を延々と終わるまで続けます。しかも、ただ繰り返すだけではだめで、エラーがあるブースや浮いてしまっているブースなどを一つ一つチェックしつつ進める根気のいる作業です。心を込めて正面からブースを見つめ、丹念に植えていく気構えが大切になってきます。

お分かりかと思いますが、これは到底人間のやるべき仕事ではありません。その分ミスも多く、チェックも数回繰り返さなければならない、なかなかハードな“現場”だったのです。

***

ハードな現場だった、と過去形なのは、実は2, 3, 4と回を重ねる毎に、現場の作業環境も変化を遂げてきたからです。

驚くべきことに、現場作業を支援する技術を「独自に開発」していただき、専用のツールを用いることで、その愛すべきブースたちを手で植えていかなくても配置することが可能となってしまいました。
(ツールについては詳しくは車軸さんの記事を参照してください。めっちゃ書いてあります。こんなに書いていいんでしょうか?sugoi)
https://www.v-market.work/article/42

これはツルハシで掘るしかなかった中世の土木作業現場に突如産業革命が訪れたような、現場史に残る跳躍でした。配置作業員は、ただ目の前の土を掘ることではなく、どこをどう掘るべきか(どこに配置すると出展者さんの利益になるか)について考えることができるようになったのです。

春の終わり

しかし、バーチャルの春は儚いものです。
「これで余裕を持って出展者さんのブースをチェックできるぞ」と安心したのも束の間、現場に激震が走る情報が入ってきました。

「Vケット4は1407サークル!ワールド数は43!」

何を言っているのかわかりませんでした。圧倒的な数の暴力の前に、私のような非力な現場作業員など、為す術もありません。
「Vケット2って、403ブースじゃなかったっけ、草」
そんな声が(私の心の中で)聞こえました。

いくらなんでも自動化されたとはいえ、確認は必要だし、全自動というわけではないため配置の作業自体は存在しています。今回担当するDefault Cubeの出展サークル数は2019年末の時点で195を数え、ワールド数想定はなんと10に達していました(ありがたいことですね)。何かが崩れ落ちる音がSpatial Audioで全身を包まれる感じで聞こえた気がしました。

革命再び

どうなってしまうのかと不安を抱きながら、配置作業の開始を待つ最中、Slackから「ツールめっちゃつくってる」そんな噂が現場に流れてきました。いくらツールが良くなったとしても、それだけチェックが必要になることには変わらない…どうせ割りを食うのは…などとバーチャル小石をバーチャルつまさきでコツリと小突きながら独りごちていた過日…

「なんかツールが3つぐらいに増えてる!!」
突如現場へと降ってきた恩恵の数々は、技術班の数ヶ月の苦労のたまものでした。

それはいわば、自動化されたドローンたちに指示さえ出せばあとは土を掘ってくれるスマート土木作業ロボットのようなものでした。現場にIT革命が訪れました。

スマートインテリジェント配置ライフ

そんなスマート化された現場であったとしても、ブースを一つ一つ大切に扱う気持ちは現場作業員にとって最も重要な心構えの一つであり、いつまでも変わることはありません。
茶化してるぽい言い方ですが、これは本心です。配置スタッフは皆真剣で、誰よりも責任を感じながら作業を行っていました。
Vケットにとって、おそらく最も理想的な未来は「現場作業員が不要となる」状態であると思います。これは「どんなに気をつけていても必ず起こるヒューマンエラー」に対して、システムで安全を担保するフェイルセーフの考えからしても、妥当です。出展者さんの意図をそのまま完全に反映するのはとても難しいことです。なればこそ、できる限り運営側での瑕疵の可能性を極限まで潰していく必要が求められていると思っています。

もし完全に自動化されるそんな未来が訪れたら…役目を終えた現場作業員は、また次の新しい現場を探していくのだと思います。


おわり

著者近影

※公式には“配置スタッフ”と呼んでいますが、現場感が出るので自らを作業員と呼称しています。他の配置スタッフさんをそのように呼ぶことはやめてくださいね。