水木しげる記念館「妖怪めがねの異界案内」

Creative Direction, Experience Design(Mixed Reality), Graphic Design(PR, UI)

Mixed Reality Exhibition at Mizuki Shigeru Museum

Client: Kadinche
主催: 水木しげる記念館
開発: Kadinche
協力: 水木プロダクション
Copyright: 水木プロダクション


鳥取県の水木しげる記念館協力のもと行われた、Mixed Reality技術を用いて展示体験を空間ごと拡張する実証実験企画。
Domainはプロジェクト全体のクリエイティブディレクション、体験デザイン(企画, UX設計)、グラフィックデザイン(PR Material)、アプリデザイン(構造, UI Design)を行なった。
既存展示に対するデジタル技術を用いた価値のアップデートを目的とし、展示体験にMixed Realityによるインタラクティブ性を付加することにより、どのような体験の向上が得られるのかを、実際に来館者の方に体験していただき、定性的/定量的に検証した。

コンセプトとデザインの企図

水木しげる記念館(現在はリニューアルにより建て替え)は、数々の妖怪のジオラマ展示や水木先生の執筆環境の再現など、物理的に充実した展示が魅力である。 しかし同時に、昨今の情報化時代においては、展示に付随する情報の提示方法や、提示される情報量に関して来館者の意識とは齟齬が出やすい状態にある。

これは全国のどの美術館や博物館でも同様の課題を抱えている。デジタルの世界、インターネットには大量の情報があるため、その場で検索する方がより詳細な情報が得られるという奇妙な逆転現象すら起こっている。しかし現地にしかない情報、特に物理的な、世界で唯一そこにしかない本物が表現するものこそが展示の真の価値である。
そこで、Mixed Realityを用いた拡張型の展示ガイドによって、既存の物理的な展示会場を物理的な改変を行うことなく “アップデート” することで、既存展示の魅力を最大限に伝達できるようにすることを本プロジェクトのクリエイティブ側のテーマとして設定した。

従来の展示キャプションやデスクリプションの記載方法では、情報量の表現に限界がある。鑑賞者にとっても時間あたりに体験可能な情報量は上限が存在し、一定量以上の情報はノイズにしかならないため、わかりやすさと同時に圧縮された深く濃い情報を伝える必要があるが、印刷物をベースとした展示手法では鑑賞者とのインタラクションが存在しないため一定量以上の伝達は困難であり、展示空間のコミュニケーションデザインとして不可能性の壁に行き当たっている。
この問題は一見すると情報密度の高い新しいメディアの表現手法、動画やデジタルサイネージ等を用いることで解決するかと期待されてはいたが、実態としては、動画はタイムベースドメディアであり情報提示を時間的に圧縮しただけにすぎず、鑑賞者の場所的時間的な拘束を必須とするため、展示体験としてはかえって質が落ちることがわかってきている。スライドショー等による展示についても同様の問題点が明らかになっている。

そこで、展示では馴染み深い、旧来より存在するAidedな展示体験の拡張手法である「音声ガイド」に着目した。音声ガイドは基本的には聴覚のみを通じた情報提示であるため、自ら展示と合わせる鑑賞上の工夫が求められる。 本プロジェクトでは、Mixed Realityデバイスを装着した鑑賞者は何ら特別なことをせず通常の鑑賞を行っていただく。鑑賞者の位置情報に加え、カメラから取得した画像認識によって、高精度かつ自動的に展示との連携を行えるようシステムを構築しており、鑑賞者はほとんど無意識的に自然な展示体験として物理的な展示から追加の情報を得ることができる。

たとえば鑑賞者がジオラマを注視するだけで、その妖怪が原作で登場した出典情報や、妖怪の説明がグラフィカルに表示される。本人はこれといって新しいインタラクションを学習する必要はない。展示鑑賞の動作としてすべてが自然な鑑賞動作の一部となるよう体験デザインを行っている。
展示を通常と同じように移動して鑑賞していくだけで、展示から得られる情報や体験が通常よりも数段向上する。新しいテクノロジーを用いることで、むしろより自然な体験となっていくことを意図して全体を構築している。

従来は存在しなかった物理的な空間とのインタラクティブな情報の交換が可能となるように全体の体験を設計し、境界領域に属するニューメディア的な感性を既存の世界に適用することで、現在の展示と鑑賞者との自然な新しいコミュニケーションが生まれ、より深く展示と作家の価値観やコンテンツと直接関係することができる。新しい技術を用いて追加の何かを加えるのではなく、体験の質をより向上させ価値と満足度を高めるための提案である。

プレスリリース:
Mixed Realityデバイスを用いた空間体験「妖怪めがねの異界案内」を水木しげる記念館にて実証実験
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000060963.html

メディア掲載:
「妖怪めがね」でのぞく異界 鳥取の水木しげる記念館でMR実証実験 – 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASQ9Q71NRQ9QPUUB005.html
取材動画
https://www.youtube.com/watch?v=SLG49jKd2_w

西洋妖怪バックベアードが館内を案内 水木しげる記念館で「HoloLens 2」を使ったMR展示ガイド「妖怪めがねの異界案内」が25日まで開催 – ガジェット通信
https://getnews.jp/archives/3342755

妖怪や人だま 目の前に 水木記念館 きょうからMRガイド実験 - 日本海新聞
https://www.nnn.co.jp/news/220923/20220923043.html
取材動画
https://www.youtube.com/watch?v=Jfsw7DErZZY

見えないものが見えるようになる。Mixed Reality の新たな可能性。水木しげる記念館「妖怪めがねの異界案内」体験レポート - Microsoft
https://news.microsoft.com/ja-jp/2022/10/12/221012-new-possibilities-for-mixed-reality/